DO THINGS THAT DON’T SCALE スケールしないことをしなさい。

 <開始日:2025112日(日)>

<配信日:2026111日(日)>

 

DO THINGS THAT DON’T SCALE

スケールしないことをしなさい。

 

著者ポール・グレアム

https://paulgraham.com/ds.html

 

日本語訳:金 東煜

初版第1刷り発行 2026111

 

 

<表記について>

1. 原文をしっかり理解するために、英語の勉強がてら気になる英単語には()として日本語の意味を追記しました。

2. 英語の熟語には下線を引き、青色で表記しました。

3. 重要だと感じた文書は太字で強調しております。特に重要だと思っている文書(考え方)には、赤の太字で協調しております。

 

 

Sourcehttps://paulgraham.com/aord.html

 

スケールしないことをしなさい

 

20137

 

Yコンビネーターで私たちが最も頻繁に伝えるアドバイスの一つに、「スケールしないことをしなさい」というものがあります。多くの創業者は、スタートアップは自然に離陸するか、しないかのどちらかだと信じています。つまり、何かを作って公開すれば、もしそれが「より優れたネズミ捕り器(=優れた製品)」であれば、人々は噂通りにあなたの元へ押し寄せてくるはずです。逆に誰も来ないのであれば、その市場は存在しないのだと結論づけてしまうのです。[1]

実際のところ、スタートアップが軌道に乗るのは、創業者がそうなるように仕向けるからです。ごく少数、自然発生的に成長する場合もあるかもしれませんが、大抵の場合、動き出すには何らかの後押しが必要です。良い例えとしては、電動スターターが普及する前の自動車エンジンに使われていた「クランク」が挙げられます。一度エンジンがかかれば自走し続けますが、最初に動かすには別途手間のかかる始動作業が必要だったのです。

 

ユーザー獲得

創業初期において、最も典型的な「スケールしないこと」の一つが、創業者自らがユーザーを一人ひとり手間をかけてで獲得することです。ほぼ全てのスタートアップが、最初はこれを行わなければなりません。ユーザー自らやってくるのを待っていてはいけません。自ら外に出て行って、ユーザーを連れてくる必要があります。

 Stripeは、私たちが投資した中で最も成功したスタートアップの一社であり、彼らが解決した問題は緊急を要する切実なものでした。もしユーザーが自然に集まってくるのを待っていられるスタートアップがあるとすれば、それはStripeだったかもしれません。しかし実際には、StripeYCの中でも特に積極的に初期ユーザー獲得の活動で有名でした。

スタートアップ向けのプロダクトを作っているスタートアップは、私たちが出資を行った他のスタートアップが潜在的ユーザーとなるため、非常に大きいな市場が存在します。そして、その機会を最も上手に活用したのがStripeでした。YCでは、Stripeの創業者であるコリソン兄弟が考案した手法を「コリソン・インストール(Collison Installation)」と呼んでいます。多くの控えめな創業者は、「私たちのベータ版を試してみませんか?」と尋ね、相手が「はい」と答えれば「ありがとうございます。リンクをお送りしますね」と言って終わります。しかし、コリソン兄弟は違いました。誰かがStripeを試してみたいと言った瞬間、「それでは、あなたのノートパソコンをお借りします」と言って、その場でセットアップを始めたのです。

創業者が直接ユーザーを一人ひとり獲得することに抵抗を感じる理由は、主に2つあります。一つは、恥ずかしさと面倒くささが入り混じったものです。見知らぬ人たちに声をかけて、多くに断られるよりは、自宅でコードを書いている方が楽だと感じるのです。しかし、スタートアップが成功するためには、少なくとも一人の創業者(通常はCEO)が営業やマーケティングに多くの時間を割く必要があります。[2]

  創業者たちがこの道を無視してしまうもう一つの理由は、最初は絶対的な数字があまりにも小さく見えるからです。「有名な大企業が、こんなやり方でスタートしたはずがない」と彼らは思ってしまうので。しかし、彼らが犯す間違いは、複利的な成長の威力を過小評価することです。私たちは全てのスタートアップに、週ごとの成長率で進捗を測るように進めています。例えば、ユーザーが100人いる場合、来週は10人増やして、週10%成長することを目指します。一見すると110人という数字は、100人と比べて大した違いに見えないかもしれません。しかし、毎週10%ずつ成長し続ければ、その数字は驚くほど大きな数字になります。1年後には14,000人になり、2年後には200万人に到達するのです。

ユーザーを一度に千人単位で獲得する段階では、やるべきことも変わってきますし、成長も最終的には緩やかになるものです。しかし、市場が存在しているのであれば、最初は一人ひとり手間をかけてユーザーを獲得し、その後、徐々により自動化された方法へと移行していくことが通常は可能です。[3]

 Airbnbは、このような手法の典型的な例です。マーケットプレイス型のビジネスは立ち上げ当初に勢いをつけるのが非常に難しいため、最初は文字通り「英雄的な努力」が求められると覚悟が必要です。Airbnbの場合、それはニューヨークの街を一軒一軒回って新規ユーザーを勧誘し、既存ユーザーには物件掲載情報を一緒に改善していく極めて地道なサポートをしていました。YC在籍中のAirbnbの創業者たちの様子を思い出すと、私は彼らがいつもキャリーバックを引いている姿が思い浮かびます。なぜなら、彼らは毎週火曜日のディナーミーティングに現れるたびに、彼らは決まってどこかの都市から飛行機で戻ってきたばかりだったからです。

 

脆弱さ

今でこそAirbnbは止められない巨大な存在に見えますが、創業初期は非常にもろい存在でした。ユーザーと直接会って関わる活動をたった30日間続けたことが、成功と失敗を分ける決定的な違いとなったのです。

この初期の脆弱さは、Airbnb特有のものではありません。ほぼ全てのスタートアップが初期段階では脆弱なものなのです。そして、これこそが経験の浅い創業者や投資家(さらには記者やフォーラムで知ったかぶりをする人たち)がスタートアップについて最も大きく誤解してしまう要因の一つです。彼らは無意識のうちに、誕生したばかりのスタートアップを、既に成熟した企業と同じ基準で判断してしまうのです。それはまるで、生まれたばかりの赤ちゃんを見て「この小さな存在が何かを成し遂げられるはずがない」と決めつけるようなものです。

 記者や知ったかぶりの人たちが、あなたのスタートアップを見下しても、さほど問題ではありません。彼らはいつも物事を見誤ります。投資家があなたのスタートアップを見下しても、それはまだ大丈夫です。成長を目の当たりにすれば、彼らの考えも変わるでしょう。本当に危ないのは、あなた自身が自分のスタートアップを見限ってしまうことです。私は、実際にそういう例を何度も見てきました。私はよく、今自分たちが築いているものの本当の可能性に気付いていない創業者に励ます役目を担っています。ビル・ゲイツですらその過ちを犯したことがあります。彼はマイクロソフトを立ち上げた後も秋学期にハーバードへ戻ったのです。結局長くは滞在しませんでしたが、もしマイクロソフトが後にどれほど大きくなるか少しも想像できていたなら、彼はそもそも戻ることはなかったでしょう。[4]

初期段階のスタートアップについて尋ねるべき問いは、「この会社は世界を制覇しつつあるのか?」ではなく、「もし創業者が正しいことをすれば、この会社はどれほど大きくなり得るのか?」ということです。そして、その「正しいこと」は、当時は骨が折れる割に取るに足らないように見えることが多いです。マイクロソフトが、ニューメキシコ州アルバカーキで数人のメンバーが数千人程度のオタク(hobbyist:当時そう呼ばれていました)向けにBASICインタプリンタを書いているに過ぎなかった頃、特にすごい会社には見えなかったはずです。しかし、今振り返って見ると、それはマイクロコンピュータソフトウェア市場を支配するための最適な道筋だったのです。また、ブライアン・チェスキー(Brian Chesky)とジョー・ゲビア(Joe Gebbia)が、Airbnbで最初のホストの部屋を「プロっぽく」写真を撮っていた時、彼ら自身が成功への道を進んでいると感じていたわけではありません。ただ生き延びようとしていただけです。しかし、振り返って見ると、それもまた大きな市場を制するための最適な道筋だったのです。

 では、ユーザー一人ひとり手間をかけて募集するにはどうすれば良いのでしょうか?もし自分自身の課題を解決するために何かを作ったのであれば、自分と似たような人、つまり「仲間」を探せば良いので、それは比較的に難しくありません。そうでない場合は、有望なユーザー層を意図的に見つけ出すために、もう少し努力が必要になります。一般的な方法として、先ずは比較的にターゲットを絞らない形でプロダクトをローンチして初期ユーザーを獲得し、その中で最も熱心に使ってくれているユーザーを観察し、同じような人たちを探しに行くというものです。例えば、ピンタレスト(Pinterest)の創業者であるベン・シルバーマン(Ben Silbermann)は、初期ユーザーの多くがデザインに関心を持っていることに気付き、デザイン系のブロガーが集まるカンファレンスに参加してユーザーを募集したところ、それが非常に上手く行ったのです。[5]

喜び

 ユーザーを獲得するだけでなく、彼らを喜ばせるためにも、並外れた努力を払うべきです。Wufooは、可能な限り長い間(実際には驚くほど長い期間)新しいユーザー一人ひとりに手書きの感謝状を送っていました。あなたの最初のユーザーは、「このサービスに登録して本当に良かった」と心から感じるべきです。そしてあなた自身も、どうすれば彼らをもっと喜ばせることができるか、新しい方法を必死で考え続けなければなりません。

何故、私たちはこれをスタートアップに教えなければならないのか?何故、創業者に取って直感に反するのか?その理由は3つあると私は考えています。

 一つ目の理由は、多くのスタートアップ創業者がエンジニアとしての訓練を受けており、カスタマーサービスというものがその訓練には含まれていないからです。エンジニアは、本来、頑丈で洗練されたものを作るべきであって、営業担当のように個々のユーザーに従順に対応するべきではないとされてきまいた。皮肉なことに、エンジニアリングが伝統的に手取り足取りの対応を嫌う理由の一部は、エンジニアがそれほど強い立場にいなかった時代の名残です。つまり、彼らがものづくりという狭い領域だけを担い、全体を動かす立場ではなかった時代です。スコッティ(技術士官)の立場であれば頑固でも良いかもしれませんが、カーク(船長)の立場であればそれは通用しません。

創業者が個々の顧客に対して十分に注力しないもう一つの理由は、「それではスケールしないのではないか」と心配するからです。しかし、まだ初期段階でスタートアップの創業者がそうした懸念を持っている場合、私はこう言います。「今の時点で、あなたたちが失うものなど何もない」と指摘します。今いるユーザーをどことん喜ばせることに全力を尽くせば、いつかはその数が増えすぎて、全員にそこまで手をかけるのが難しくなるかもしれません。それは、むしろ喜ばしい問題です。是非、それを実現してみてください。そして実際にその時が来たら顧客を喜ばせるという行為が、思った以上にスケールすることに気付くはずです。その理由の一部には、大抵の場合、工夫次第で拡張を高められる方法が見つかるものですし、もう一つの理由としては、顧客を喜ばせるという文化が、既に会社全体に染み渡っているからです。

 初期ユーザーを喜ばせようと必死になり過ぎた結果、スタートアップが行き止まりの道に迷い込んでしまったような事例を私は一度たりとも見たことがありません。

 しかし、創業者たちがどれほど自分たちのユーザーに対して丁寧な対応ができるかに気付けない最大の理由は、彼ら自身がこれまでにそうした丁寧な対応を受けた経験がないからかもしれません。彼らのカスタマーサービスに対する基準は、自分たちがこれまで顧客として接してきた企業、つまり大企業によって形成されています。例えば、あなたがノートパソコンを買っても、ティム・クックが手書きのメッセージを送ってくることはありません。彼にはそれができません。でも、あなたにはできます。それこそが小さな会社であることの利点の一つです。大企業には絶対に真似できないレベルのサービスを提供できるのです。 [6]

 既存の常識がユーザー体験の上限ではないと気付いた瞬間から、ユーザーをどこまで喜ばせることができるかを考えることが、とても楽しく興味深いことになります。

 

経験
 ユーザーへの注意をどれほど極端に払うべきかを表現するフレーズを考えていた時、スティーブ・ジョブズが既にそれを言い表していたことに気付きました。「インサンリー・グレート(Insanely Great/狂気的に素晴らしい)」です。スティーブは「insanely(狂気的に)」を単に「very(とても)」の同義語として使っていた訳ではありません。彼はそれをもっと文字通りの意味で使っていたのです。日常生活であれば、病的と見なされるほどのレベルで、実行の質に拘るべきだということを意味していました。

私たちが出資した中で最も成功したスタートアップは全てそうしてきましたし、それは恐らく、これから起業しようとする人にとっても驚くことではありません。しかし、初期の創業者が理解していないのは、初期段階のスタートアップにおける「インサンリー・グレート(Insanely Great/狂気的に素晴らしい)」が、何を意味するかということです。

スティーブ・ジョブズがこのフレーズを使い始めた時、Appleは既に確立された企業でした。彼が意味していたのは、Mac(そのドキュメントやパッケージまでも、それが執着というものです)が狂気的なまでに優れた設計と製造をされているべきだということでした。これはエンジニアに取って理解しやすいことです。頑丈でエレガントな製品を設計するということのより極端なバージョンに過ぎません。
 創業者たちが理解するのに苦労する点は(そして、スティーブ・ジョブズ自身も最初はそうだったかもしれませんが)、スタートアップの最初の数か月に「インサンリー・グレート(Insanely Great/狂気的に素晴らしい)」がどのような意味に変化するかということです。この段階で「インサンリー・グレート(Insanely Great/狂気的に素晴らしい)」であるべきなのは製品そのものではなく、あなたのサービスを利用するという体験なのです。製品はその体験を構成する一要素に過ぎません。大企業においては当然、製品の質が体験の中心になります。しかし、スタートアップ初期段階においては、完成度が低く、不完全でバグだらけの製品であっても、それを補うだけのきめ細かな気配りをもってすれば、ユーザーに「インサンリー・グレート(Insanely Great/狂気的に素晴らしい)」体験を提供することは可能であるし、そうすべきなのです。

できるかもしれない、でもすべきか?答えはイエスだ。初期ユーザーに対して過剰なほど関わることは、単に成長を加速させるために許される手段ではない。多くの成功したスタートアップにとって、製品を良くするためのフィードバックループにおける必須の要素です。より良いネズミ捕りを作ることは、一度で完結する作業ではありません。例え、成功したスタートアップの多くがそうであったように、自分自身が必要とするものを作るところから始めたとしても、最初に作るものは決して完璧ではありません。そして、ミスに対して大きな代償が伴うような分野を除けば、最初から完璧を目指すよりも、不完全でも先ずは世に出してみる方が良い場合が多いです。特にソフトウェアにおいては、ある程度の実用性(ユーティリティ)が確保できた時点でできるだけ早くユーザーの前に出し、彼らがどう使うかを観察する方が最も効果的です。完璧主義は、往々にして行動を先延ばしにする言い訳に過ぎません。そして、例えあなた自身がそのユーザーの一人であっても、初期のユーザーモデルは常に不正確です。 [7]

最初のユーザーと直接関わって得られるフィードバックは、あなたが今後得られるフィードバックの中で最も優れたものになります。やがて会社が大きくなり、フォーカスグループに頼らざるを得なくなった時、少人数しかいなかった頃のように、ユーザーの自宅や職場に出向いて実際にプロダクトを使っている様子を観察できたあの時に戻りたいと思うはずです。

 

点火

時には、意図的に狭い市場に焦点を絞るという、正しい「スケールしない戦略(unscalable trick)」が有効なこともあります。これはまるで、先ず火を狭い空間に閉じ込めて十分ン位熱くしてから、薪を追加するようなものです。

フェイスブックがまさにそうでした。最初はハーバード大学の学生専用のサービスとして始まりました。その形では、対象となる市場はせいぜい数千人程度でしたが、「これは自分たちのためのものだ」と学生たちが感じたことで、限界点を超える人数が登録しました。ハーバード大学専用でなくなった後も、暫くの間は特定の大学の学生向けに限定されていました。私がスタートアップスクールでマーク・ザッカーバーグにインタビューした際、彼は各大学の履修科目リストを作成するのはとても手間がかかったが、それをやることでよって、学生たちはフェイスブックを自分のための場所だと感じさせることができたと語っていました。

マーケットプレイス型と呼ばれるようなスタートアップは、たいてい市場の一部セグメントから始めなければなりません。ただし、このアプローチは他の事業領域のスタートアップにも有効です。重要なのは短時間でクリティカルマス(一定の利用者)を獲得できる市場の部分領域が存在するかどうか?を常に問い続けることです。 [8]

 「火を閉じ込めて燃やす戦略(contained fire strategy)」を使うスタートアップの多くは、それを無意識のうちに行っています。彼らは自分たちや友人のために何かを作り、それがたまたまアーリーアダプターだったことで、後になってからそれをもっと広い市場に提供できることに気付くのです。この戦略は、無意識に行っても十分に機能します。このパターンを意識していない場合の最大のリスクは、その一部を無邪気に捨ててしまうことです。例えば、自分や自分の友人のために何かを作らなかった場合、或いは作ったとしても、自分が企業出身であり、友人がアーリーアダプターではない場合は、最初から理想的な市場は自然には手に入りません。

 企業の中で、最も優れたアーリーアダプターはたいてい他のスタートアップです。スタートアップは性質上新しいものに対して開かれているうえに、創業間もないため、まだ多くの意思決定を終えていないといる理由からも、新しいものを受け入れやすいのです。さらに、彼らが成功すれば急成長し、それに伴ってあなたの会社も成長できます。これはYC モデル(特にYCを大きくしたこと)がもたらした数多くの予期せぬ利点の一つは、B2Bスタートアップにとっては、今や数百社のスタートアップという即時にアクセス可能な市場が手に入ることです。

 

メラキ

https://en.wikipedia.org/wiki/Cisco_Meraki

無線アクセスポイントを提供するスタートアップ企業、2012Ciscoに買収

 

ハードウェア系のスタートアップにおいては、「スケールしないことをしなさい」の一種として、私たちが「Meraki方式(Pulling a Meraki)」と呼んでいるものがあります。私たちはMerakiに出資はしませんでしたが、創業者たちはロバート・モリスの大学院生だったので、その経緯を知っています。彼らがスタートした方法は、まさにスケールしないことをやる好例で、自分たちの手でルーターを組み立てていたのです。

 ハードウェアスタートアップは、ソフトウェアスタートアップにはない壁に直面します。それは、工場での量産には、必要な最低発注額が通常数十万ドルにもなるということが多いためです。これは「鶏が先か卵が先か」というジレンマに陥る原因となります。つまり、製品がなければ必要な成長を生み出せず、成長がなければ製品を製造するための資金を調達できないという状況です。かつてハードウェア系スタートアップが資金を投資家に頼るしかなかった時代には、このジレンマを乗り越えるには非常に強い説得力が求められました。現在では、クラウドファンディング(より正確には、予約販売)の登場によって、こうした問題はかなり改善されました。それでもなお、可能であれば最初は「Meraki方式」を取ることを私はお勧めします。実際、Pebble(ぺブル)社もそうしました。彼らは最初の数百本の腕時計を自分たちで組み立てたのです。もしその段階を経ていなければ、キックスターターで1,000万ドル相当の腕時計を販売するには至らなかったでしょう。

初期の顧客に過剰なほど気を配ることが価値のあるのと同様に、ハードウェアスタートアップに取って自分たちで製品を製造することも非常に価値があります。自分たちで工場を運営するからこそ、設計の改善を迅速に行うことができますし、そうでなければ決してきづけなかったことも数多く学ぶことができます。Pebble(ぺブル)のエリック・ミギコフスキーは、「良質なネジを調達することがどれほど重要かを学んだ」と語っていました。まさか、そんなこと、誰が知っていたのでしょうか?

 

コンサルタント
 私たちは時々、B2Bスタートアップの創業者に対して、顧客との関わりを極端なレベルで高めるようアドバイスすることがあります。具体的には、たった一人のユーザーを選び、そのユーザーのためだけにコンサルタントとして製品を開発するかのように取り組むのです。この最初のユーザーは、言わば「鋳型」の原型となり、彼らのニーズに完全にフィットするまで微調整を繰り返すことで、結果的に他のユーザーにも求められるような製品が出来上がることがほとんどです。例え同じようなユーザーが多くなったとしても、その周辺にはより多くの似たような潜在ニーズを持つ市場が広がっている可能性があります。たった一人でも、本当にその何かを必要としていて、なおかつそのニーズに応じて行動できるユーザーを見つけられれば、それだけで「人々が求めるものを作る」というスタートアップに取って最も大切な足掛かりを得たことになります。そして、それこそが創業初期のスタートアップに取って、必要十分なことなのです。 [9]

 コンサルティングは、スケールしない仕事の典型例です。しかし(他人に手厚く尽くす行為と同様に)、報酬を受け取らない限りは安全に行えます。企業がその一線を超えるのは、そこに報酬が発生した時です。あくまで製品を提供する会社であり、顧客に対して特別に丁寧に対応しているだけであれば、例え全ての問題を解決できなくても顧客は感謝してくれます。しかし、その丁寧な対応に対してお金を支払うようになった瞬間、(つまり時間単位であなたにお金を払うようになった時から)、顧客はすべてを解決することを期待するようになります。

 最初はあまり乗り気でないユーザーを獲得するために、コンサル的な手法として、自分たちのソフトウェアをユーザーの代わりに使ってあげるという方法もあります。私たちはViaweb(ビアウェブ)でそれを実践しました。オンラインストアを作るために私たちのソフトウェアを使ってみませんか?と商店オーナーに声をかけると、中には断る人もいましたが、君たちが代わりに作ってくれるならいいよと言う人もいました。ユーザーを獲得するためなら何でもやる覚悟だったので、私たちはそれを引き受けました。当時はかなり情けなく感じました。大きな戦略的なeコマース(電子商取引)提携を組むどころか、自分たちでスーツケースやボールペン、紳士用シャツを売ろうとしていたのですから。しかし、今振り返ってみれば、それはまさに正しいアプローチでした。何故なら、その経験によって、私たちのソフトウェアを使う商店オーナーがどんな体験をするかを実感できたからです。時にはほぼリアルタイムでフィードバックが回ることもありました。ある店舗のサイトを構築している最中に必要だけどまだ実装していない機能に気付き、数時間かけてその機能を実装し、それからまたサイト制作を再開するということもありました。

 

手動
 更に極端な例として、自分たちがソフトウェアそのものになるという
方法があります。ユーザーがまだ少ないうちに、将来的に自動化しようと考えている作業を手動で対応することで何とかやりくりできることがあります。この方法を取れば、より早くプロダクトをリリースすることができ、最終的に自動化する際にも、自分の身体で覚えた経験があるため、何をどう構築すべきかを正確に理解できるのです。

 手動による仕組みがユーザーからはまるでソフトウェアのように見える場合、この手法はちょっとした「実用的ないたずら」のような側面を帯びてきます。たとえば、ストライプ(Stripe)が最初のユーザーに即時の加盟店アカウントを提供していた方法は、裏で創業者たちが手動で従来型の加盟店アカウントを手動で登録していたというものでした。

 スタートアップの中には、最初は全て手動で運営されるものもあります。もし、誰かが抱えている問題を見つけて、それをあなたが手動で解決できるのであれば、できる限りその方法で解決を続けて、その後ボトルネックとなる部分から徐々に自動化していけば良いのです。自動化されていない手動でユーザーの問題を解決している状態は、少し怖く感じるかもしれません。しかし、自動化されているけれども、誰の問題も解決できていないという、よくあるケースよりはずっとマシなものです。

 

大規模

最初の戦術として、あまり上手く行かない典型的なやり方を一つ挙げておきます。それは「大々的なローンチ」です。時々、スタートアップを動力付きの航空機ではなく、まるで一度放たれた「弾丸」のように捉えている創業者に出会います。つまり、「初速さえ十分なら、きっと成功する」と信じているようです。そのため、彼らは8つのメディアで同時に記事を取り上げてもらおうとしたり、全てをエンバーゴ(報道禁止時間)付きで仕込もうとします。そしてもちろん、発表日は「火曜日」にしたがります。どこかでローンチに最適なのは火曜日と読んだからです。

ローンチがどれほど重要ではないかは、簡単に分かります。成功したスタートアップをいくつか思い浮かべてみてください。そのうち、ローンチの様子を覚えている企業はどれぐらいありますか?ローンチで必要なのは、最初のコアユーザー層を獲得することだけです。その数か月後に上手く行っているかどうかは、どれだけ多くのユーザーを集めたかではなく、彼らをどれだけ満足させたかによって決まります。 [10]
 それでは、なぜ創業者たちはローンチが重要だと考えているのでしょうか?それは、独善的な思い込みと怠慢さが合わさっているからです。彼らは、自分たちが作っているものがあまりにも素晴らしいので、それを知った人は誰でもすぐに登録してくれるはずだと思い込んでいます。さらに、自分たちの存在を広く知らせるだけでユーザーを獲得できるなら、一人ひとり手間をかけて獲得するよりもはるかに楽な方法だとも考えているのです。しかし、例えあなたのプロダクトが本当に素晴らしいものだとしても、ユーザーを獲得するプロセスは、常に少しずつ進むものです。その理由の一つは、素晴らしいものはたいてい新しくて斬新だから人が直ぐには理解できないという点ですが、何よりも、ユーザーには他にも考えるべきことがたくさんあるからです。

パードナーシップもまた、たいてい上手く行きません。スタートアップ全般にとって上手く機能しないことが多いですが、特に成長の起爆剤としては機能しません。経験の浅い創業者がよく陥る誤解の一つに大企業との提携が自分たちにとっての大きな転機になると信じ込むことがあります。しかし6か月も経てば、誰もが口を揃えてこう言うのです。「あれは思っていたよりもずっと手間がかかったし、結局ほとんど何も得られなかった」と。 [11]

 最初に何か並外れたことをするだけでは不十分です。最初に並外れた努力をしなければなりません。最初の努力を省くような戦略――例えば、大々的なローンチによってユーザーが獲得できるとか、大企業との提携が全てを解決してくれる戦略――といった考え方は、その時点で疑ってかかるべきです。

 

ベクトル

※大きさと方向の両方を持つ量:速度、力など

 

スタートアップを始める際に、最初はスケールしない大変なことをやらなければならないというのは、ほぼ普遍的な事なので、スタートアップのアイディアを「スカラー(単一の値)」として考えるのはやめた方が良いかもしれません。その代わりに、「何を作るか」という要素と「会社を軌道に乗せるために、最初にやるスケールしないこと」という2つの要素の組み合わせで考えるべきです。

 このようにスタートアップのアイディアをとらえ直してみるのは面白いかもしれません。なぜなら、構成要素が2つあることで、最初の要素(何を作るか)だけでなく、2つ目の要素(スケールしないこと)についても創造的に考える余地が生まれるからです。とはいえ、ほとんどの場合、2つ目の構成要素はいつも通り「ユーザーに手間をかけて獲得し、圧倒的に良い体験を提供すること」です。スタートアップをベクトル(方向と大きさのあるもの)として捉える主な利点は、創業者に対して「2つの方向で努力する必要がある」と気付かせることにあります。

 理想的なケースでは、ベクトルの両方の要素が会社のDNAに貢献します。スタートアップ初期に必要な「スケールしないこと」は、単なるやむを得ない苦労ではなく、会社を永続的に良い方向へ変えてくれるものとなります。例えば、会社が小さいうちは、ユーザー獲得に積極的でなければならなかったとしても、その姿勢は規模が大きくなってからも続くでしょう。自分たちでハードウェアを製造したり、ユーザーの代わりにソフトウェアを使って見たりすることで、それによってしか得られない学びがあるはずです。そして何より重要なのは、ほんの一握りのユーザーしかいない時に、彼らを喜ばせるために懸命に努力したならば、やがてユーザーが増えた後もその姿勢を保ち続けられるということです。

 

 

注釈

[1]
実際のところ、エマーソンは具体的にネズミ捕りには言及していません。彼が書いたのは次のような内容です。「もし人が良いトウモロコシや木材、板材、豚などを売っていたり、他の誰よりも優れた椅子やナイフ、るつぼ、或いは教会のオルガンを作ることができるならば、例えその人の家が森の中にあったとしても、その家へと通じる広く踏み固められた道ができるだろう。

 

[2] この点を明確にするよう助言してくれたサム・アルトマンに感謝します。そして、いいえ、最初から営業を他人に任せて自分は避けるということはできません。創業初期には、自分自身で営業をしなければならないのです。後になってから、専門の営業担当を雇って自分の代わりにやってもらうことは可能です。


[3]
これが上手く行く理由は、企業が成長するにつれて、その規模自体がさらなる成長を後押ししてくれるからです。パトリック・コリソンはこう書いています。「ある時点から、Stripeの雰囲気が明らかに変わりました。最初は私たちが押さなければならなかった大きな岩のようだったのが、自ら推進力を持つ列車のように変わったのです。

 

[4] YCが創業者たちを支援できる、より繊細な方法の一つは、彼らの野心の基準を調整することです。何故なら、私たちは多くの成功したスタートアップが創業初期にどのような姿だったのかを正確に知っているからです。


[5]
もしあなたが、簡単に少人数のユーザーから反応を得ることができないプロダクト、例えば企業向けのソフトウェアを開発していて、しかもその分野に人脈がいない場合、飛び込み営業や紹介に頼るしかありません。でも、そもそもそんなアイディアに取り組むべきなのでしょうか?

 

[6] ギャリー・タンは、創業者が初期に陥りがちな興味深い罠を指摘しました。彼らは大きく見せたいあまり、大企業の欠点さえも真似してしまうのです。例えば、個々のユーザーに対する無関心といったものです。そうすることが、より「プロフェッショナル」だと感じてしまうのです。しかし、実際には自分たちが小さいという事実を受け入れ、それがもたらすあらゆる利点を活用する方がずっと良いのです。

 

[7] ユーザーのニーズに基づくモデルは、ほとんどの場合、完全に正確であることはあり得ません。何故なら、ユーザーのニーズは、あなたが提供するものに応じてしばしば変化するからです。例えば、あなたがユーザーのためにマイクロコンピュータを作ったとします。すると突然、ユーザーは、今度はその上で表計算ソフトを使いたいというニーズが出てきます。何故なら、そのマイクロコンピュータの登場によって、誰かが表計算ソフトという新しいアイディアを生み出させるきっかけになるからです。

 

[8] もし、最も早く登録してくれそうな層と、最も多くお金を払ってくれそうな層のどちらかを選ばなければならないとしたら、通常は前者を選ぶのが最善です。何故なら、その層こそがアーリーアダプターである可能性が高いからです。彼らは製品に対してより良い影響を与えてくれる上に、営業にそれほど多くの労力をかける必要もありません。確かに彼らはそれほど多くの資金を持っていないかもしれませんが、初期段階で必要な成長率を維持するには、そこまで多くの資金は必要ありません。

 

[9] 確かに、特定のたった一人のユーザーにしか役に立たないものを作ってしまうケースもあるとは思います。ですが、そういったケースは、例え経験の浅い創業者であっても大抵は明らかに分かるものです。ですので、それがたった一人のためのプロダクトになってしまうのでは?ということが明らかでない限り、そのリスクをあまり心配する必要はありません。   

 

[10] ローンチの規模と成功の間には、逆相関があるかもしれません。私が覚えているローンチは、セグウェイ(Segway)やグーグルウェーブ(Google Wave)のような有名な失敗例ばかりです。特にグーグルウェーブ(Google Wave)は非常に気がかりな例で、それは実際には素晴らしいアイデアだったと思うのですが、過剰なローンチによって部分的に失敗に追い込まれたと思うからです。

[11]
グーグルはヤフーのおかげで大きく成長しましたが、それは提携ではありませんでした。ヤフーはグーグルの顧客だったのです。

 

[12] また、この考え方は、創業者たちに次のことを思い出させてくれるでしょう。即ち、ベクトルの第2要素が空っぽのアイディア(例え、ユーザーに手間をかけて獲得する手段がなく、立ち上げのためにできることが何もないアイディア)は、少なくともその創業者にとっては、悪いアイディアである可能性が高いことです。

 

 この原稿を読んで意見をくださったサム・アルトマン、ポール・ブックハイト、パトリック・コリソン、ケビン・ヘイル、スティーブ・レヴィ、ジェシカ・リビングストン、ジェフ・ラルストン、ギャリー・タンに感謝します。

 

 

特記事項

1.原文(当該の言語)をベースに、英語、日本語、韓国語へと翻訳を行っております。

2.配列の順番は、原文(当該の言語)を主としているため、その都度、順序は変わります。

3.英語から日本語への翻訳は、英辞郎アルクhttps://eow.alc.co.jp/を活用しております。また、文書全体の翻訳はChatGPThttps://chatgpt.com/)を活用しておりますため、多少ニュアンスの違いが生じる可能性があります。

4.本ブログの内容に訂正または修正及び追記が必要な場合は、当該の文書に対してコメントをいただけますと対応させていただきます。

5.特定のコンテンツにおいて、より具体的な説明または文献情報が必要な場合は、当該の内容についてコメントいただきますと可能な限りご対応させていただきます。

6.掲載内容は予告なしに追記または修正が加わる可能性がありますのでご了承ください。

 

 

次回の更新は2026118日(日)に予定されています。どうぞおしみに

다음 업데이트는 2026 1 18() 예정되어 있습니다. 많은 기대 부탁드립니다!

The next update is scheduled for Sunday, January 18, 2026. We hope you look forward to it!

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