生き残れるのか、それとも倒産するのか。


 <開始日:2025112日(日)>

<配信日:2025928日(日)>

 

生き残れるのか、それとも倒産するのか。

 

著者:ポール・グレハム

https://paulgraham.com/aord.html

 

日本語訳:金 東煜(ドンウク)

2025928日(日)初版第1刷り発行

 

<表記について>

重要だと感じた文書は太字で強調しております。特に重要だと思っている文書(考え方)には、赤の太字で協調しております。

 

Sourcehttps://paulgraham.com/aord.html

 

 生き残れるのか、それとも倒産するのか。

 

201510

 

創業から8~9か月以上経過しているスタートアップと話をする際に、私が最初に知りたいことはほぼ決まっています。それは、「現在の支出が変わらず、過去数か月間の収益成長率が維持されると仮定した場合、手元に残っている資金で黒字化まで到達できるのか?」という点です。あるいは、もっと劇的に表現すると、「このまま何もしなければ、生き残れるのか?それとも倒産するのか?」ということです。

 

 衝撃的なことに、創業者自信がそれを把握していないことが良くあります。私が話をする創業者の半数は、自社がこのまま何もしなくても「生き残れるのか、それとも倒産するのか」を理解していません。

  もしあなたがその中に含まれるのであれば、Trevor Blackwell氏が作成した便利な計算ツール*を使って確認することができます。

 

私が最初に、そのスタートアップが「生き残れるのか、それとも倒産するのか」を知りたい理由は、それによってその後の会話の内容が大きく左右されるからです。もし「生き残れる」状態であれば、これから挑戦できる新しいことについて話すことができます。しかし、「倒産する」状態であれば、まずはその会社をどうやって立て直すのかを話し合う必要があります。今の状態のままだと上手く行かないのは明らかです。では、どうすればその状態からどう抜け出せるか?

 

何故「生き残れるのか、それとも倒産するのか」を把握している創業者がこれほど少ないのでしょうか?主な理由は、その問いを自分に投げかける習慣が無いからだと思います。この問いは、創業初期にはあまり意味を持ちません。まるで3歳の子共に「これからどうやって自分の生活を支えるつもり?」と聞くようなもので、現実的ではありません。しかし、会社が成長するにつれて、その問いは無意味なものから極めて重要なものへと変わります。この切り替わりに、多くの人が不意を驚かされるのです。

 

私が提案する解決策は次の通りです。「生き残れるのか、それとも倒産するのか」という問いを、遅すぎるタイミングで考え始めるのではなく、むしろ早すぎる段階で、考え始めることです。この問いの重要性が切り替わるタイミングを正確に見極めるのは難しいですが、「自分たちが倒産するのではないか?」と早すぎるくらいに心配し始めることには、それほどリスクはありません。一方で、気付くのが遅すぎることには極めて危険です。

 

その理由は、以前私が書いた「致命的な窮地(The Fatal Pinch*)」という現象にあります。致命的な窮地は、「倒産する状態」+「成長の遅さ」+「立て直すための時間の不足」が重なった状況です。そして、創業者がこの状態に陥るのは、自分たちがまさにそこに向かって進んでいることに気付かないからです。

 

創業者が自分たちに「生き残れるのか、それとも倒産するのか」を問いかけないもう一つの理由は、「資金調達は簡単にできるだろう」と思い込んでいるからです。しかし、その思い込みは往々にして間違っています。さらに悪いことに、その思い込みに頼れば頼るほど、現実はその期待からどんどん遠ざかっていくのです。

 

もしかすると、「希望」と「現実」を切り分けることが助けになるかもしれません。漠然とした楽観主義で将来を捉えるのではなく、その構成要素をはっきり分けて考えてみましょう。例えば、「私たちは倒産する状態にあるが、投資家が救ってくれることを期待している」とはっきり言葉にしてみるのです。おそらく、それを口にした瞬間、私と同じようにあなたの頭の中にも警告が鳴るでしょう。そして、もしその警告が十分に早い段階で鳴れば、「致命的な窮地」を回避できるかもしれません。

 

投資家が自分たちを必ず助けてくれるのであれば、「倒産する状態」であっても安全だと言えるでしょう。とは言え、一般的に投資家の関心は成長率に比例します。年間5倍以上の急成長をしていれば、例え黒字化していなくても投資家の関心を期待し始めることはできます。しかし、投資家というのは、非常に気まぐれな存在なので、彼らが期待し始める以上の確信を持つことは禁物です。例えば、成長率が素晴らしくても、ビジネスの何かが投資家の不安材料になることもあります。だからこそ、例えどんなに成長していても、資金調達を「プランA」として過信してはいけません。常に「プランB」も持っておくべきです。つまり、資金調達が出来なかった場合に、生き延びるために何をしなければならないのか、そして「プランA」が機能しなかったと判断し、「プランB」へ切り替えるタイミングがいつなのかを正確に(できれば書き出して)把握しておく必要があります。

 

いずれにせよ、「急成長すること」と「低コストで運営すること」は、多くの創業者が思い込んでいるような激しい対立関係にはありません。実際には、スタートアップがどれだけお金を使うかと、どれだけ速く成長するかの間には、驚くほど相関がありません。スタートアップが急成長するときは、それは大抵製品がユーザーの「痛点」を突いており、大きなニーズを真正面から捉えているからです。一方で、スタートアップが多額の支出をしている時は、それは大抵の場合、製品の開発や販売にコストがかかるか、単に無駄遣いをしているかのどちらかです。


 ここまで注意深く読んできたなら、この時点で「致命的な窮地」をどう避けるかだけでなく、「倒産する状態」をどう回避するかも気になるはずです。それは簡単です:採用を急ぎ過ぎないことです。資金調達に成功したスタートアップが失敗する最大の原因は、採用の急ぎ過ぎです。

 

創業者たちは、自分たちが成長するために採用が必要だと自分に言い聞かせます。しかし、ほとんどの誤りは、この必要性を過小評価するよりも過大評価する方向にあります。何故でしょうか?一つは、やるべき仕事が山ほどからです。経験の浅い創業者は、十分な人を採用すれば全部片付くと思い込みがちです。もう一つは、成功しているスタートアップにはたくさんの社員がいるので、それが成功するための方法だと思えるからです。しかし実際のところ、成功しているスタートアップに人員が多いのは、原因というよりも結果である可能性が高いです。そしてもう一つは、成長が遅いときに、その本当の理由「プロダクトが十分に魅力的でないこと」について、創業者が向き合いたくないからです。

 

更に、資金調達を終えたばかりの創業者は、出資してくれたVC(ベンチャーキャピタル)からしばしば人員採用を多くするように奨励されます。「効くか死ぬか」の戦略は、VCの立場としては、分散投資というポートフォリオ効果によって守られる最適な手段です。VCはある意味、スタートアップを「爆発的に成長させるか、または吹き飛ばすか」を望んでいます。しかし、創業者であるあなたにとっては、インセンティブの構造が全く異なります。創業者(あなた)が何より重視すべきなのは「生き残ること」です。

 

スタートアップが倒産する典型的なパターンがこちらです。まず、ほどほどに魅力的なプロダクトを作り、初期の成長も悪くありません。創業者が優秀に見え、アイディアももっともらしく聞こえるので、最初の資金調達は比較的にスムーズに進みます。しかし、そのプロダクトはほどほどに魅力的なだけなので、成長は悪くないが、素晴らしくもないという状態に留まります。そこで創業者たちは、成長を加速させるには人を大量に雇うことが必要だと自らを納得させます。投資家もそれに同意します。しかし、(プロダクトがほどほどに魅力的なだけなので)思ったような成長は決して訪れません。その間に資金が急速に尽き始めます。創業者たちは、追加の資金調達で状況を打開できると期待します。しかし、支出が大きく成長が鈍い状態では、投資家にとって魅力的には映りません。結果として追加の資金調達に失敗し、会社は潰れてしますのです。

 

この会社が本来すべきだったのは、根本的な問題――つまり、プロダクトが「ほどほどに魅力的なだけという点」――に取り組むことでした。その問題を解決する手段として、人を雇うのはほとんどの場合、適切ではありません。むしろ多くの場合、かえって状況を複雑にしてしまいます。の初期段階においては、プロダクトを「拡張」させるよりも「進化」させる必要があります。そして、その進化は、少人数の方がむしろ実現し易いものです。

 

「生き残れるのか、それとも倒産するのか」と自問することは、このような事態からあなたを救ってくれるかもしれません。その問いによって鳴り響く警鐘が、人を過剰に雇いたくなる衝動にブレーキをかけてくれるかもしれません。その代わりに、他の方法で成長を追い求めようとする意識が働くはずです。例えば、「スケールしないことをしなさい(doing things that don't scale*)」を実践するとか、創業者にしかできないやり方でプロダクトを再設計するといったことです。そして、多くのスタートアップにとって、こうした成長の道こそが実際に効果を発揮する手段なのです。


 Airbnbは、Yコンビネーターのプログラム終了時に資金調達を行った後、最初の従業員を雇うまでに4か月を待ちました。その間、創業者たちはひどく働き詰めの状態でした。しかし、彼らが忙殺されていたのは、Airbnbというプロダクトを、今日のような驚くほど成功した存在へと「進化」させるための時間だったのです。



注釈
[1]
急激なユーザー利用の増加もまた、投資家の関心を引きます。収益は最終的にはユーザー利用量の一定倍率で決まるため、利用がx%成長すれば、成長もx%成長すると予測できます。しかし実際には、投資家は単純に予測上の利益を割り引いて評価する傾向があるため、もし利用状況で成長を測っている場合は、投資家にインパクトを与えるためにより高い成長率が必要になります。

 
[2]
資金調達をしないスタートアップは、資金的な余裕が無いために、過剰な採用を避けられるという意味で救われることがあります。しかし、だからと言って過剰採用を避けるために資金調達をすべきではないと考えるのは、アルコール依存症にならないためには完全に禁酒するしかないという考え方と同じくらい極端なものです。


[3] VC
が創業者に対して過剰採用を促す傾向は、実は彼ら自身の利益にもなっていないかもしれないことは不思議ではありません。彼らは、過剰な支出によって潰れてしまったスタートアップの中に、もし生き残っていれば成功していたかもしれない会社が、どれほどあったのか分からないのです。予想ではそのはかなりいはずです

[4] サム・アルトマンは原稿を読んだ後、こう書きました。
 「採用に関するポイントは、もっと強調すべきだと思います。YCの最も成功している企業は、どこも決して採用のスピードが最も速かったわけではないというのが概ね正しいと思います。そして、優れた創業者の特徴の一つは、この“早く採用したい”という衝動に打ち勝てることだとも言えるでしょう。


 ポールブックハイトはこう付け加えています:

私がよく見かける関連した問題として、早過ぎるスケーリングがあります。創業者が、実際には上手くいっていない(大抵は一顧客当たりの採算性が悪い)小さなビジネスを、印象的な成長数字を出したいがために拡大してしまうのです。これは、過剰採用とよく似ていて、一度ビジネスが大きくなってしまうと立て直すのが非常に難しくなるだけでなく、資金の消耗も加速度的に激しくなります。

 

* Unit Economics = LTV(Life Time Value: 顧客生涯価値) ÷ CAC(Customer Acquisition Cost: 顧客獲得費用)

https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-20653.html

 

この原稿を読んで意見をくれたサム・アルトマン、ポールブックハイト、ジョーン・ゲビア、ジェシカ・リビングストン、ジェフ・ラルストンに感謝します。

 

*Paul Graham’s essay “DEFAULT ALIVE OR DEFAULT DEAD?”

(https://paulgraham.com/aord.html)

 

*Paul Graham’s essay “THE FATAL PINCH”

(https://paulgraham.com/pinch.html)

 

*Paul Graham’s essay “DO THINGS THAT DON’T SCALE”

(https://www.paulgraham.com/ds.html)

 

 

特記事項

1.原文(当該の言語)をベースに、英語、日本語、韓国語へと翻訳を行っております。

2.配列の順番は、原文(当該の言語)を主としているため、その都度、順序は変わります。

3.英語から日本語への翻訳は、英辞郎アルクhttps://eow.alc.co.jp/を活用しております。また、文書全体の翻訳はChatGPThttps://chatgpt.com/)を活用しておりますため、多少ニュアンスの違いが生じる可能性があります。

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次回の更新は2025105日(日)に予定されています。どうぞおしみに

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