Startup Playbook_スタートアップ・プレイブック(戦略集)
<開始日:2025年1月12日(日)>
<配信日:2025年8月10日(日)>
Startup Playbook
スタートアップ・プレイブック(戦略集)
著者:サム・アルトマン
https://playbook.samaltman.com/
日本語訳:金 東煜
2025年8月10日(日)初版第1刷り発行
<表記について>
重要だと感じた文書は太字で強調しております。特に重要だと思っている文書(考え方)には、赤の太字で協調しております。
Source:https://playbook.samaltman.com/
私たちは、スタートアップへのアドバイスに多くの時間を費やしています。個別のアドバイスが常に重要であることに変わりはありませんが、YコンビネーターやYコンビネーターの仲間の企業に提供できるような「プレイブック(作戦集)」のような形で、最も汎用性の高いアドバイスをまとめれば、Yコンビネーターの支援の幅を広げられるのではないかと考えました。
そして、私たちはこれをすべての人に提供すべきだと考えました。
この資料は、スタートアップの世界に初めて足を踏み入れたばかりの人を対象としています。YCパートナーがこれまで書いてきた文章を多く読んできた人にとっては、ほとんど目新しい情報ではないかもしれませんが、目的はそれを一か所にまとめることにあります。
後日、スタートアップをスケールアップする方法については、「パートII」として公開する可能性がありますが、今回の内容は主にスタートアップを始める方法について焦点を当てています。
Source:https://playbook.samaltman.com/
スタートアップの目標は、ユーザーが心から愛するものを作ることです。まずそれが達成できれば、その後はどうやってもっと多くのユーザーを獲得するかを考える必要があります。しかし、この最初のステップが極めて重要です。現在本当に成功している企業を考えてみてください。どの企業も、初期ユーザーが心から気に入り、他の人に広めたくなるようなプロダクトからスタートしました。このステップを飛ばすと失敗します。また、ユーザーがあなたのプロダクトを愛していると錯覚している場合でも失敗します。
スタートアップの墓場には、このステップを軽視した人々の遺産が山のように積まれています。
少数のユーザーに愛されるプロダクトを作るほうが、多くのユーザーに「まあまあ好き」と思われるプロダクトを作るよりも遥かに良いです。全体の好感度の合計が同じだったとしても、「まあまあ好き」から「心から愛される」に進むよりも、新しいユーザーを獲得する方がはるかに簡単だからです。
スタートアップを始める際の警告をしておきます。率直に言って「大変」です! YCの創業者たちから最も多く聞くフィードバックの一つが、「想像以上に過酷だった」というものです。これは、スタートアップに必要な働き方やその強度について理解する枠組みを持っていなかったからです。通常は急成長している初期段階のスタートアップに参加する方が、経済的にはずっと良い選択となります。
一方、スタートアップを始めることは実際にはキャリアにとってそれほどリスクが高いわけではありません。もし本当に技術力が優れているなら、失敗しても就職の機会はあるでしょう。多くの人はリスクを正確に評価するのが苦手です。私個人の意見では、本当に情熱を持てるアイデアやプロジェクトがあるにもかかわらず、安全で、楽でやりがいのない仕事を続けることのほうが、よほどリスクが高いと考えます。
成功するスタートアップには、次の要素が必要です:優れたアイデア(素晴らしい市場を含む)、優れたチーム、優れた製品、そして優れた実行力。
PART I THE IDEA(アイデア)
私たちが、YCの会員企業に尋ねる質問の一つは、「何を作っていて、なぜそれを作っているのか」です。
ここでは明確かつ簡潔な答えを求めています。これは創業者としての資質とアイデアそのものを評価するためでもあります。創業者として明確に考え、伝える能力は、採用や資金調達、営業など、あらゆる場面で重要です。アイデアもまた、広がるためには明快でなければなりません。複雑なアイデアは、多くの場合、整理されていない思考や作られた問題である証拠です。また、そのアイデアを初めて聞いた時に少なくとも一部の人々が本当に興奮しないようなら、それはあまり良くありません。
もう一つ重要なのは、「誰がそのプロダクトを切実に必要としているのか」を尋ねます。
理想的なのは、自分自身がターゲットユーザーである場合です。それが無理でも、ターゲットユーザーを非常によく理解していることが求められます。
もしすでにユーザーがいる場合、私たちはその数と増加速度を尋ねます。その成長がなぜもっと速くないのか、特にユーザーがそのプロダクトを本当に愛しているかを確認します。通常、それは会社からの働きかけなしにユーザーが自発的に友人にそのプロダクトを勧めているかどうかで判断します。また、収益を上げているかどうか、そうでない場合はその理由も尋ねます。
まだユーザーがいない場合には、最初に作るべき最小限のプロダクト(MVP)を明らかにして、仮説を検証します。理想的な体験から逆算して、どこから始めるべきかを見極めます。
アイデアを検証する方法は、実際にそれを立ち上げて結果を観察するか、販売を試みることです(例:コードを1行も書く前に購入意向書を取得してみる)。前者はB2C向けのアイデアに適しており(ユーザーが使うと言っても、実際には市場の混雑を突破できないことが多い)、後者はB2B向けのアイデアに適しています(企業が「購入する」と言えば、それを構築すればよい)。特に、あなたがB2B向けの会社である場合、私たちが最初に尋ねる質問の1つは、顧客から「あなたが構築しているものを購入する」という内容の購入意向書(LOI)を持っているかどうかです。ほとんどのバイオテックやハードテック企業においては、アイデアをテストする最初のステップとして、潜在的な顧客と話し合い、最初に構築できる技術の最小構成要素を定義することから始めます。
ユーザーからのフィードバックを受けてアイデアを進化させることが重要です。そして、ユーザーを深く理解することが、アイデアの評価、優れたプロダクトの構築、優れた会社の構築に必要です。
前述の通り、スタートアップは非常に困難です。長い時間と継続的で真剣な努力が必要です。創業者と従業員には、会社を支える共通の使命感が求められます。そのため、「なぜこの会社を立ち上げたいのか」を尋ねます。
さらに、「その会社が将来的に独占的な地位を持つにはどうするか」も聞きます。これはピーター・ティールの言葉を借りたものです。当然ながら、競合他社に対して非倫理的な行為を求めているわけではありません。むしろ、規模が大きくなるほど強くなり、模倣されにくいビジネスを求めています。
最後に、マーケットについて聞きます。現在の市場規模、成長速度、10年後に大きくなる理由を聞きます。市場が急成長する理由やなぜその市場がスタートアップに適しているかを理解しようとします。私たちは、主要な技術的なパラダイムシフトが始まったばかりで、大企業がまだ気づいていない状況を好みます。逆説的ではありますが、小さな市場の大部分を取るのが最善の答えです。
アイデアについての補足:
私たちは、既存のものを模倣したものよりも、まったく新しいものを圧倒的に好みます。真に大きな会社の多くは、根本的に新しい何かから始まります(新しいものの一つの定義として「10倍良いもの」が挙げられます)。同じ時期に同じ計画で10社もの他の会社が始まり、それがすでに存在するものと非常によく似ている場合、私たちは懐疑的になります。
直感に反するかもしれませんが、新しくて困難なものを行う方が、模倣的で簡単なものを行うよりも簡単です。前者の場合、人々は助けたいと思ったり、参加したいと思ったりしますが、後者ではそうはなりません。
最高のアイデアは、一見すると聞こえは悪いが、実際には良いものです。だから、自分のアイデアをあまり秘密にする必要はありません。もしそれが本当に良いアイデアであれば、盗む価値があるとは思われない可能性が高いからです。仮に盗む価値があるように思われたとしても、素晴らしいアイデアを実際に優れた会社にするための努力を惜しまない人よりも、良いアイデアを持っている人の方が少なくとも千倍は多いのです。そして、何をしているのかを人に話せば、助けてもらえるかもしれません。
自分のアイデアを人に話すことについて言えば、そのアイデアを初めて聞いたときに一部の人を本当にワクワクさせることが重要ですが、ほとんどの人はそのアイデアはダメだと言うでしょう。それはもしかすると正しいかもしれませんし、その人たちがスタートアップを評価するのが得意ではないのかもしれません。または単に嫉妬しているだけかもしれません。理由はどうあれ、こうしたことは頻繁に起こります。それに傷つくことでしょう。そして、自分は影響を受けないと思っていても、実際には影響を受けてしまうものです。自分を信じる力を早く身につけ、批判者に対して過度に引きずられないようにするほど、成功に近づくことができます。どれだけ成功しても、批判者は決していなくなりません。
アイデアがないのにスタートアップを始めたいと思ったらどうすればいいのでしょうか?もしかすると、始めない方がいいかもしれません。アイデアが最初にあって、それを世の中に広める手段としてスタートアップを始める方がはるかに良いのです。
かつて、私たちは有望な創業チームに資金を提供し、アイデアがない状態から資金提供後に有望なアイデアを見つけ出すことを期待するという実験を試みたことがあります。
その結果は、すべて失敗しました。問題の一部は、優れた創業者が多くの良いアイデアを持っている(通常、アイデアが多すぎる)ことだと思います。しかし、さらに大きな問題は、スタートアップを始めると、急いでアイデアを思いつかなければならず、すでに公式な会社であるため、そのアイデアはあまりにも突飛なものにはチャレンジできないということです。最終的に、実現可能に聞こえるが独創性のないアイデアに行き着きます。これがピボットの罠です。
したがって、スタートアップのアイデアを無理に思いつこうと積極的に努力するのは避けた方が良いです。その代わりに、さまざまなことについて学びましょう。問題を見つける練習をし、非効率に見えることや大きな技術的変化に注目しましょう。興味のあるプロジェクトに取り組み、賢くて面白い人々と積極的に関わりましょう。そうするうちに、アイデアが自然に浮かび上がる時が来るでしょう。
*Projects and Companies
(https://blog.samaltman.com/projects-and-companies)
PART II A GREAT
TEAM(優れたチーム)
Source:https://playbook.samaltman.com/
平凡なチームでは偉大な会社を築くことはできません。私たちが最も重視しているのは創業者の力量です。かつて後期ステージの投資をしていた頃、私は創業者が採用した従業員の力量にも同じくらい注意を払っていました。
では、優れた創業者とは何でしょうか?最も重要な特性は、粘り強さ、決意、手強さ、そして機転の良さなどです。知性と情熱も非常に重要な要素です。これらはすべて、経験や「言語XやフレームワークYに関する専門知識」よりもはるかに重要です。
私たちが気づいたこととして、最も成功している創業者は一緒に働いていてストレスが少ないタイプの人だということです。なぜなら、「この人なら何があっても必ずやり遂げるだろう」と感じられるからです。時には、純粋な意志の力だけで成功をつかむこともあります。
優れた創業者には、一見矛盾するように見える資質を複数持ち合わせています。その代表例が、「堅さ」と「柔軟さ」です。会社の核となる部分やミッションに対しては強い信念を持ちながら、それ以外のほとんどのことに関しては非常に柔軟で、新しいことを学ぶ姿勢を持つことが求められます。
最も優れた創業者は、大変迅速に対応することが特徴です。これは、決断力、集中力、情熱、そして物事を成し遂げる能力の指標となります。
話しづらい創業者は、ほとんどの場合うまくいきません。コミュニケーションは創業者にとって非常に重要なスキルです。実際、私はこれがほとんど語られることのない中で、最も重要な創業者の資質だと考えています。
テック系スタートアップには、少なくとも会社の製品やサービスを構築できる創業者が1人必要であり、また、営業やユーザーとの対話が長けている(もしくは成長できる)創業者が1人必要です。この2つの役割は同じ人物が担うことも可能です。
共同創業者を選ぶ際には、これらの基準をしっかり考慮してください。これはあなたが下す最も重要な決定の一つであり、多くの場合、かなり偶然に行われることがあります。共同創業者には、最近知り合ったばかりの人や共同創業者マッチングイベントで出会った人ではなく、よく知っている人物を選ぶべきです。一緒に働く可能性がある場合、できるだけ多くの情報のもとに適切に評価した方が良いですし、この判断を間違えたくないはずです。また、ある時点でスタートアップの期待値がX軸を下回ることがあり得ます。その時、以前から関係を築いている共同創業者であれば、お互いに失望させたくない気持ちから、続けることができます。共同創業者間の決裂は、初期段階のスタートアップが失敗する主な原因の一つであり、特に創業者同士が会社設立のためだけに出会った場合に非常に頻繁に発生することを私たちは目にしています。
圧倒的に良いケースは、優れた共同創業者を持つことです。その次に良いのは、単独創業者であることです。そして、圧倒的に悪いケースは、悪い共同創業者を持つことです。うまくいっていない場合は、早めに別れるべきです。
株式比率についての一言を付け加えると、株式の分配についての話し合いは、時間が経つにつれて簡単になることはありません。早い段階で決めておく方が良いです。ほぼ均等に分けるのが理想ですが、共同創業者が2人の場合は、対立が起きた際に行き詰まらないように、どちらかの一方が1株多く持つ方が良いかもしれません。
PART III A GREAT PRODUCT(優れたプロダクト)
成功の秘訣はこれです:素晴らしいプロダクトを持つこと。これこそ、すべての偉大な企業に共通する唯一の要素です。
ユーザーが心から愛するプロダクトを作らなければ、最終的には必ず失敗します。それにもかかわらず、創業者は常に他の裏技を探そうとします。スタートアップとは、そうした裏技が通用しなくなる人生の局面なのです。
長期的に成長する唯一の方法は、素晴らしいプロダクトを作ることです。最終的に会社が十分に大きくなると、すべての成長ハックは通用しなくなり、人々があなたのプロダクトを使いたいと思うことで成長するしかありません。これは、超成功している企業について理解する上で、最も重要な事柄です。他に方法はありません。本当に成功しているテクノロジー企業を思い浮かべてください――彼らは皆がこれを実行しています。
会社の中には「プロダクト改善エンジン」を構築することが重要です。ユーザーと対話をし、彼らが製品を使用する様子を観察し、どの部分が不十分かを特定して製品を改善してください。そしてそれを繰り返します。このサイクルこそが会社の最優先事項であり、他のすべてを動かす原動力であるべきです。毎週プロダクトを5%改善すれば、それは確実に複利効果を発揮します。
このサイクルの反復速度が速ければ速いほど、通常、会社の成果は良くなります。YC期間中、私たちは創業者たちに、プロダクトを作り、ユーザーと話すことに専念し、それ以外は食事、睡眠、運動、そして大切な人たちと過ごす時間を除いてほとんど何もしないように伝えています。
このサイクルを正しく行うためには、ユーザーに極めて近づく必要があります。文字通り、彼らがあなたのプロダクトを使う様子を観察してください。可能であれば、彼らのオフィスに座って見てみましょう。彼らが語ることと、実際に行っていることの両方を重視するべきです。創業者とユーザーの間に誰かを介在させるのは可能な限り遅らせるべきです。つまり、創業者自信が営業もカスタマーサポートも行う必要があります。
ユーザーを可能な限り深く理解してください。本当に彼らが何を必要としているのか、どこにいるのか、そして何が彼らの心を動かすのかを徹底的に把握しましょう。
「スケールしないことをしなさい」という言葉は、スタートアップの合言葉(信念)として定着しています。通常、最初のユーザーは1人ずつ獲得する必要があります(例えば、ベン・シルバーマンはパロアルトのカフェで見知らぬ人に声をかけ、Pinterestを試してもらうようお願いしていました)。そして、彼らが求めるものを作りましょう。多くの創業者はこの部分を嫌がり、プロダクトをプレスリリースするだけでユーザーを獲得しようと考えます。しかし、それはほとんど上手くいきません。ユーザーを手作業で獲得し、彼らが友人に勧めたくなるような非常に優れたプロダクトを作りましょう。
また、物事は非常に小さな単位に分解し、進めながらその都度反復し適応する必要があります。あまり遠い未来まで計画しようとせず、一度にすべてを大規模なリリースにまとめるのは避けましょう。できるだけシンプルで表面的な範囲が最小限のものから始め、思っているよりも早くリリースすることを目指してください。実際、シンプルさは常に良いことであり、プロダクトも会社もできるだけシンプルに保つべきです。
問題を抱えているスタートアップに私たちがよく投げかける質問は以下の通りです:ユーザーはあなたのプロダクトを複数回使用していますか?ユーザーはあなたのプロダクトに熱狂していますか?もしあなたの会社がなくなったら、ユーザーは本当に残念に思いますか?ユーザーはお願いしなくても他の人にあなたプロダクトを推薦していますか?もしB2B企業なら、少なくとも10社の有料顧客がいますか?
もしそうでない場合、それが根本的な問題であることが多く、私たちは企業にプロダクトを改善するように伝えます。私は、会社が成長しない理由についての多くの言い訳には懐疑的です。多くの場合、本当の理由は単純にプロダクトが十分に良くないということです。
スタートアップが自社の製品で次に何をすべきかわからない場合や、プロダクトが十分に良くない場合、私たちはユーザーと話をするように勧めます。これがすべてのケースでうまくいくわけではありません。確かに「フォードに速い馬を求める人々がいた」という話が示すようにそれが適さない場合もありますが、驚くほど多くの場面で効果を発揮します。実際、もっと一般的に言えば、会社内で何かについて意見が分かれたときは、ユーザーに聞いてください。
最高の創業者は、例え重要ではないと思われる細部に対しても、プロダクトの品質を少し過剰に気にしているように見えます。しかし、それがうまく機能しているようです。ちなみに、「プロダクト」とは、ユーザーが会社と関わるすべての体験を含みます。優れたサポート、素晴らしい営業対応などを提供する必要があります。
覚えておいてください。優れたプロジェクトを作らなければ、それ以外の何をしてもあなたを救うことはできません。
PART IV GREAT EXECUTION(優れた実行)
素晴らしい製品を作ることは必要ですが、それだけで終わりではありません。その後は、素晴らしい会社に成長させる必要があります。そしてそれを行うのはあなた自身です。「経験豊富なマネージャー」を雇ってすべての仕事を任せるという幻想は非常に広まっている一方で、失敗した会社の墓場となっています。長い間、この仕事を他の誰かに委託することはできません。
当たり前のように聞こえますが、お金を稼がなければなりません。今がその方法について考え始める良いタイミングです。
CEOの唯一の普遍的な職務内容は、会社が成功することを確実にすることです。例え、CEOとして通常は不適格とされる多くの欠点があっても、自分のスキルを補完する人材を雇い、その人たちに仕事を任せれば、創業者として成功を収めることができます。華やかなMBAを持つ経験豊富なCEOは、あなたが持っていないスキルギャップを持っていないかもしれませんが、ユーザーをあなたほど深く理解していなかったり、同じような製品直感を持っていなかったり、同じ熱意を持っていない可能性があります。
PART IV GREAT EXECUTION(優れた実行)_GROWTH(成長)
成長と勢いは、優れた実行が鍵です。(1ドル札を90セントで売るような成長でない限り)成長はすべての問題を解決します。一方、成長がなければ、それを解決するのは成長しかありません。成長していれば、勝っているように感じ、人々は幸福を感じます。成長していると、新しい役割や責任が次々と生まれ、人々は自分のキャリアが進展していると感じます。一方、成長していないと、負けているように感じ、人々は不満を抱いて辞めていきます。成長がなければ、人々は責任を巡って争い、非難ばかりするようになります。
燃え尽き症候群に陥る創業者や従業員は、ほとんどの場合、勢いのないスタートアップで働いています。その士気の低下がどれほど深刻かは、いくら強調してもしすぎることはありません。
優れた実行の最優先事項は「決して勢いを失わないこと」です。しかし、どうやってそれを実現するのでしょうか?
最も重要な方法は、それを最優先事項にすることです。会社はCEOが評価するものを実行します。会社が最適化する単一の指標を持つことは価値があり、適切な成長指標を見つけるために時間をかける価値があります。もしあなたが成長を重視し、実行の基準を設定すれば、会社全体がその成長目標に集中するようになります。
いくつかの例を挙げます。
エアビーアンドビー(Airbnb)の創業者たちは、目指したい成長を示す予測グラフを描き、それを冷蔵庫、デスクの上、浴室の鏡など、至るところに掲示しました。その週に目標値を達成した場合は良しとし、達成できなかった場合は、それについて徹底的に議論しました。
マーク・ザッカーバーグはかつて、フェースブック(Facebook)で成長が鈍化した際に「成長グループ」を設立したことが、最も重要なイノベーションの1つだったと述べました。このグループは(おそらく現在も)会社内で最も権威のあるグループの1つであり、誰もがその重要性は認識していました。
成長を妨げている要因のリストを作成し、それについて会社全体で議論してください。どうすれば成長をもっと加速できるかを話し合うのです。制約要因が分かれば、それを解決する方法について自然と考えるようになるでしょう。
何かを実行しようと考える時は、「これが成長を最適化する最善の方法か?」と自問してください。例えば、カンファレンスに参加することは、そこで多くの販売が期待できる場合を除き、通常は成長を最適化する最善の方法ではありません。
指標(および財務)に関する社内での透明性を極端に高めることは、とても有効です。しかし、何故か創業者はこれを非常に恐れる傾向がありますが、これは会社全体を成長に集中させるためには非常に効果的です。社員がどれだけ指標に集中しているかと、会社の業績との間には明確な相関関係があるようです。指標を隠すと、社員がそれに集中することが難しくなります。
指標に関して言えば、自己満足に過ぎない「虚栄心を満たす指標」に惑わされないようにしましょう。よくある間違いは、新規登録者数に注目するあまり、リテンション(持続率)を無視してしますことです。しかし、リテンションは新しいユーザーの獲得と同じくらい成長にとって重要です。
推進力を維持するために、社内でのリズム(歩調)を確立することも重要です。進捗を示す「ドラムビート」を持つことが大切です。例えば、新機能、顧客の獲得、新規採用、収益のマイルストーン、パートナーシップなど、社内でも対外的にも話題にできる進展を継続的に作り出したいものです。
積極的でありながら達成可能な目標を設定し、毎月進捗を確認しましょう。そして、勝利を祝うことも大切です!戦略については常に社内で話し合い、顧客から聞いたことを皆に伝えるなど、情報を共有しましょう。良いことも悪いことも含めて、より多くの情報を社内で共有すればするほど、より良い成果を生むでしょう。
創業者がよく陥る罠がいくつかあります。その一つは、会社が急成長しているにもかかわらず、すべてが非常に壊れていて非効率的だと感じる場合、誰もが物事が崩壊するのではないかと心配することです。実際には、これは滅多に起こらないようです(Friendsterは、技術的負債が原因で死んだ最近のスタートアップの例です)。逆説的ですが、急成長していて何も最適化されていないことは実は良いことです—すべてを修正すればもっと成長できます!私のお気に入りの投資先は、急成長しているが非常に最適化されていない企業です—それらは深く過小評価されています。
関連する罠の一つは、あまりにも先のことである未来の問題を考えすぎることです。つまり、「どうやってこれを大規模に実現するのか?」という問題です。答えは、その時になってから考えることです。この質問について議論している間に、スタートアップが死んでいくことの方が、考え過ぎて死んでいくことよりも圧倒的に多いのです。良い指針は、現在の規模の10倍で物事がどう機能するかを考えることのみです。多くの初期段階のスタートアップは「スケールしないことをやれ」という標語を壁に貼って、それに実践すべきです。例えば、素晴らしいスタートアップは初期段階で素晴らしいカスタマーサービスを提供しますが、悪いスタートアップはユニットエコノミクス(単位経済:一人当たりの採算性)に対する影響を心配し、それがスケールしないことを心配します。しかし、素晴らしいカスタマーサービスは熱心な初期ユーザーを生み、製品が良くなるに連れてサポートが少なくて済むようになります。なぜなら、顧客がよく困るポイント(悩む点)が分かり、その部分で製品や体験を改善できるからです(ちなみに、これは非常に重要な例です—素晴らしいカスタマーサポートを提供しましょう)。
*Unit Economics(1顧客当たりに採算性:経済性)
LTV(Life Time
Value: 顧客生涯価値)÷CAC(Customer
Acquisition Cost: 顧客獲得単価)
LTV=平均購買単価×平均購買頻度×平均継続期間
SaaS事業の場合、
ARPU(Average
Revenue Per User:顧客一人当たりの平均収益)÷解約率(Churn Rate)
https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/unit-economics/
これには大きな注意点があります。「スケールしないことをやる」というのは、最終的に収益を上げる必要がないという言い訳にはなりません。初期段階ではユニットエコノミクスが悪くても構いませんが、後でユニットエコノミクスが改善する理由をしっかり持っていなければなりません。
もう一つの落とし穴は、成長率の割合は良くても、絶対数が少ないために意気消沈してしまうことです。人間は指数関数的な成長に対する直感があまり得意ではありません。
このことをチームに思い出させるとともに、すべての大企業も小さな数字から成長を始めたことを伝えましょう。
最大の落とし穴のいくつかは、創業者が成長を促進すると信じているものの、実際にはほとんど機能せず、大量の時間を無駄にしてしまうことです。よくある例として、他社との提携や「大々的なプレスリリース」が挙げられます。これらには注意が必要で、実際にはほとんど効果がないことを理解してください。その代わりに、すべての偉大な企業が行ってきた方法で成長を目指しましょう。それは、ユーザーに愛される製品を作り、最初は手動でユーザーを獲得し、その後、多くの成長戦略(広告、紹介プログラム、営業・マーケティングなど)を試し、うまくいったものをさらに強化します。また、お客様に「あなたのような人をどこで見つけられるか」を尋ねてみてください。
セールスとマーケティングは悪い言葉ではないことを忘れないでください。素晴らしい製品がない場合、どちらもあなたを救うことはできませんが、成長を大幅に加速させる助けにはなります。もしあなたがエンタープライズ企業であるなら、これらに熟達することが必要条件となる可能性が高いです。
特にセールスを恐れないでください。少なくとも一人の創業者は、自分たちの製品を使ってもらい、お金を支払ってもらうようにお願いすることが上手でなければなりません。
アレックス・シュルツ(Alex Schultz)が消費者向け製品の成長に関する講義を行っており、一見の価値があります。B2B製品の場合、ほとんどの場合、月次の収益成長を追跡するのが正解だと思います。また、販売サイクルが長いため、最初の数カ月は見栄えが悪くなることを覚えておいてください(ただし、初期顧客としてスタートアップに販売することでこの問題を解決できる場合もあります)。
*Y Combinator: Live Lecture 6 – Growth
(Alex Schultz)
https://www.youtube.com/watch?v=n_yHZ_vKjno
*Growth : Alex Schultz
https://www.youtube.com/watch?v=8qwV-sAHsG8&t=4s
*Y Combinator: YouTube
https://www.youtube.com/@ycombinator
PART IV: EXECUTION(実行)_FOCUS
& INTENSITY(集中と熱意)
もし私が経営に関するアドバイスをたった2つの言葉に絞るとすれば、「集中」と「熱意」を選びます。これらの言葉は、私が知る最高の創業者たちに本当に当てはまるように思えます。
彼らは自分たちの製品と成長に対して、徹底的に集中しています。何でもやろうとはせず、むしろ多くのことに「ノー」と言います(これは、難しいことです。なぜなら、会社を立ち上げるような人たちは、新しいことに挑戦するのが好きなタイプだからです)。
一般的なルールとして、最初の目標を圧倒的に成功させるまで次のことに手を出さないようにしましょう。私が知る限り、偉大な会社が最初から複数のことを同時に行った例はありません。彼らは一つのことに強い信念も持ち、それを最後までやり遂げます。実際には、自分が思っているよりもはるかに少ないことしか実行できません。スタートアップが失敗する非常に一般的な原因の一つは、間違ったことをやりすぎることです。優先順位をつけることは極めて重要であり、同時に難しいものです。(会社の優先順位を設定することと同じくらい、自分自身の戦術的な優先順位を設定することも重要です。私自身にとって最も効果的だった方法は、毎日紙とペンで約3つの主要なタスクと約30の小さなタスクをリスト化し、そして年間の目標をまとめたTo-Doリストを作ることです)。
優れた創業者は多くの大きなプロジェクトを同時に行うことはありませんが、取り組むことには非常に集中的に取り組みます。彼らは物事を非常に迅速に成し遂げます。また、彼らは決断力があります。これはスタートアップを運営する上で難しいことです。なぜなら、物事を進める方法が複数あることや、世の中には悪いアドバイスも多く存在するため、矛盾するアドバイスをたくさん受けることになるからです。優れた創業者は、すべてのアドバイスに耳を傾けたうえで、迅速に自分自身で決断を下します。
これはすべてのことに全力で取り組むという意味ではないことに注意してください。それは不可能です。正しいことを選ばなければなりません。Paul Buchheitが言うように、「10%の努力で90%の価値を得る方法を見つける」ことが重要です。市場はあなたがどれだけ一生懸命働いているかには興味がなく、正しいことをしているかどうかだけに関心を持っています。
製品の品質に執着しながら、同時に迅速に動くことはとても難しいことです。しかし、それこそが優れた創業者の最も明確な特徴の一つです。
私はこれまで一度も、動きが遅い創業者が本当に成功するのを見たことがありません。
あなたは他のスタートアップと変わりません。集中し、迅速に行動し続ける必要があります。ロケットや原子炉を作る企業でさえ、これを実現しています。失敗する企業は皆、自分たちは特別だと考え、迅速に行動しなくてもよいという言い訳をします。
うまくいくものを見つけたら、そのままそれを続けてください。他のことに気を取られないでください。アクセルペダルから足を離さないでください。
初期の成功にとらわれないでください。多くのネットワーキングイベントに参加したり、数多くのパネルディスカッションで話をしたりすることで有望なスタートを切ったわけではありません。スタートアップの創業者が初期の成功を収めると、2つの道のどちらかを選ぶことになります。それは、今まで通りに事業に集中し続けるか、それとも「パーソナルブランド」について考えることに多くの時間を費やし、創業者であるという地位を楽しむかです。
カンファレンスの招待やメディアの取材を断るのは難しいものです。それらは気分が良いものですし、特に同じ業界の他の創業者が脚光を浴びているのを見るのは辛いものです。しかし、これは長くは続きません。やがてメディアは、実際に成功しているのが誰なのかを見抜きます。そして、あなたの会社が本当の成功を収めていれば、望む以上の注目を浴びることになります。極端な例として、創業初期の段階で専属の広報担当を雇う創業者もいますが、そういうのはテレビ番組にしか存在しない話ではなく、現実にも存在し、彼らはほぼ例外なく失敗します。
長期的に見れば、「集中」と「熱意」が勝利をもたらします(Charlie Roseはかつて、「世の中の物事は、集中力と人脈の組み合わせによって成し遂げられる」と言いましたが、その言葉がずっと心に残っています)。
PART IV: EXECUTION(実行)_JOBS
of the CEO(CEOの役割)
以前、CEOの唯一の普遍的な職務は、会社を確実に成功させることだと述べました。それは確かにその通りですが、今回はCEOがどのように時間を使うべきかについて、もう少し具体的に話したいと思います。
CEOの役割は以下の5つです。1)会社のビジョンと戦略を策定すること、2)会社の存在と価値をみんなに広めること、3)特に自分自身の弱点を補うチームを採用し、管理すること、4)資金調達を行うこと、5)実行のクオリティ基準を設定すること。
これらに加えて、自分が最も情熱を持てる事業領域を見つけ、積極的に関わり続けることです。
冒頭で述べたように、CEOの仕事は非常に過酷です。もし成功すれば、想像できないほどあなたの人生の大部分を占めることになります—常に会社のことが頭から離れなくなります。極度の集中と熱意が求められるため、ワークライフバランスは最適な選択肢ではありません。もう一つ大きなこと—例えば家族やたくさんのトライアスロンをすること—は持てるかもしれませんが、それ以上のことは恐らくできません。常にフル稼働しなければならず、どれだけ委任が上手くなったとしても、最終的には自分しか決断できないことが数多くあります。
あなたは、チームや外部の人々に対して迅速に対応できるようにし、常に戦略と優先事項を明確にし、重要な場には必ず参加し、迅速に実行することを目指すべきです(特に、他の人が判断待ちで止まっているような意思決定に関しては)。また、「どんなことでもやり遂げる」という姿勢を持つべきです—不快で骨の折れる仕事もたくさんあります。もしチームメンバーがあなたの姿勢を見たら、彼らも同様の姿勢を取るでしょう。
自分自身のメンタルを管理することは、とても難しく、そして極めて重要です。今ではもはや陳腐な表現かもしれませんが、これは本当の事実です—感情の浮き沈みは非常に激しく、そこをうまく乗り越えて冷静さを保たなければ、苦しむことになるでしょう。CEOという立場は孤独です。だからこそ、全てが崩れそうな時に相談できる他のCEOとの関係を持つことは重要です(YCの意外な発見の一つは、創業者同士が仲間に成れる環境でした)。
成功するスタートアップを築くには、非常に長い時間がかかります—確実に、ほとんどの創業者が最初に考えているよりも遥かに長い時間です。それを徹夜作業のように扱うことはできません。良い食事をとり、十分に寝て、運動をしなければなりません。家族や友人と過ごす時間も必要です。また、自分が本当に情熱を持って取り組める分野で働かなければなりません—それ以外では10年間も続けることはできません。
常に何かが壊れているように感じるでしょう—問題の多様性と規模の大きさには驚かされるはずです。しかし、あなたの仕事は、それらを笑顔で乗り越え、チームに全てが大丈夫だと安心させることです。通常、物事は思っているほど悪くはありません。しかし、時には本当に悪いこともあります。いずれにせよ、とにかく前に進み続けてください。成長し続けることが大切です。
CEOは言い訳をすることはできません。多くの悪いことや不公平なことが起こるでしょう。しかし、「もしもっとお金があれば」や「もしエンジニアがもう一人いれば」と自分に対しても、ましてやチームメンバーに対しても言ってはいけません。それが実現できる方法を見つけるか、それなしでどうするかを考えなければなりません。言い訳ばかりする人は、一般的に失敗しますが、スタートアップのCEOがそれをするとほぼ確実に失敗します。理不尽なことに対して1分間は気分を落ち込ませ、その後、それを解決する方法を見つけるのは自分次第だと気づくべきです。周囲の人々があなたのことを話すとき、「Xはどうにかいつも物事を成し遂げる」と言われるように努力しましょう。
初めて起業する創業者で、自分が何をしているのか完全に理解している人はいません。それを理解し、助けを求めることができるかどうかで、成功の可能性は大きく変わります。優れたリーダーやマネージャーになる方法を学ぶために時間をかける価値はあります。これを達成する最良の方法は、メンターを見つけることです—本を読むだけではあまり効果がないようです。
YCでのアドバイスの驚くほど多くは、「とにかく聞いてみる」や「とにかくやってみる」といった形式です。初めて起業する創業者は、誰かに何かを頼むときや新しいことを始めるときに、何か特別な秘訣があると思いがちです。しかし、スタートアップは小細工が通用しなくなる場所です。とにかく率直になり、自分が望むものを尋ねる勇気を持ち、失礼な態度を取らないようにしましょう。
他人に対して現実を歪めて見せることは重要ですが、自分自身に対してはそうしてはいけません。あなたは、周囲の人々には、自分の会社がこの10年で最も重要なスタートアップになる準備が整っていると信じ込ませなければなりません。しかし、自分自身は全てがうまくいかない可能性について常に警戒しているべきです。
粘り強くあれ。ほとんどの創業者はあまりにも早く諦めるか、次の製品に移るのが早すぎます。もし全体的にうまくいっていない場合は、問題の根本原因を突き止め、それを解決することに徹底してください。成功するスタートアップのCEOであるための大きな要素は、諦めないことです(ただし、あらゆる理屈を超えて頑固になりすぎてもいけません—これはもう一つの明らかな矛盾であり、判断が非常に難しい部分でもあります)。
楽観的であれ。世の中のどこかに偉大な悲観的なCEOがいる可能性はありますが、私はまだそのような人に一度も会ったことがありません。未来はより良くなるという信念、そして会社がその未来をより良くする上で重要な役割を果たすという信念を、CEOが持ち、それを会社全体に広めることが重要です。これは理論的には簡単ですが、短期的な課題という現実の中では難しいことです。長期的なビジョンを見失わず、日々の困難はいつか忘れ去られ、年単位での成長の記憶に取って代わることを信じてください。
CEOの最も重要な仕事の中には、ミッションと価値観を定義することです。これは少し気恥ずかしく感じるかもしれませんが、早い段階で行う価値があります。初めに設定したものは、何年経っても基本的に影響力を持ち続けます。そして、会社が成長するにつれて、新しく加わる人はまずそのミッションと価値観を受け入れ、それを他の人にも伝える必要があります。そのため、企業文化的な価値観とミッションを早めに明文化してください。
繰り返す価値のあるもう一つの決まり文句ですが、会社を作ることは、ある意味で宗教を作ることに少し似ています。人々が日々の業務を自分が大切に思う高次の目的と結びつけられなければ、彼らは素晴らしい仕事をすることはできません。Airbnbは、YCネットワークの中でこれを最もうまく実現していると考えており、彼らの文化的価値観をぜひ参考にしてみることをお勧めします。
CEOがよく犯す間違いの一つは、ビジネスの良く知られた領域でイノベーションを起こそうとすることです。本来なら、新しい商品やソリューションでこそイノベーションを目指すべきです。例えば、多くの創業者は、人事(HR)、マーケティング、営業、資金調達、PRなどの分野で新しい手法を発見することに時間を費やすべきだと考えます。しかし、これはほとんどの場合、悪い選択です。確立された分野では、既に実績のある方法を採用し、創造的なエネルギーは自分のプロダクトやサービスに集中させるべきです。
PART IV: EXECUTION_HIRING & MANAGING(採用とマネジメント)
採用は、CEOにとって最も重要な仕事の一つであり、優れた会社(優れた製品とは対照的)を作り上げるための鍵です。
私の採用に関する最初のアドバイスは「採用しないこと」です。YCで私たちが関わった最も成功した企業は、従業員の採用を始めるまで比較的長い時間をかけていました。従業員を雇うことはコストがかかります。従業員が増えると組織の複雑さが増し、コミュニケーションの負担も大きくなります。また、共同創業者同士なら言えることでも、従業員がいる場では言えないこともあります。さらに、従業員を増やすことで慣性が生まれ、方向転換が指数関数的に難しくなります。従業員数で自分の価値を測ろうとする誘惑に負けないで下さい。
優秀な人材には多くの選択肢があります。彼らは急成長する企業(ロケットシップ)に参加したいと思っています。もしあなたが何も持っていない状態では、彼らを採用するのは難しいです。しかし、あなたの会社が明らかに成功し始めると、彼らは自ら参加したいと思うようになるでしょう。
優秀な人材には多くの選択肢があるということは、何度でも強調する価値があります。そして、優れた会社を作るには優秀な人材が必要です。株式や信頼、責任を惜しみなく提供してください。自分では採用できないと思うような人材にも積極的にアプローチしましょう。採用したい人材は、自分で会社を立ち上げることもできる人であることを忘れないでください。
採用モードに入っているとき(つまり、プロダクトマーケットフィットを達成してから無限に続く期間)、少なくとも全体の25%の時間を採用活動に費やすべきです。少なくとも1人の創業者、通常はCEOが採用のプロになる必要があります。採用は、ほとんどのCEOにとって時間をかけるべき最優先事項です。CEOは採用活動に多くの時間を割くべきだと誰もが言いますが、実際にそれを実行しているのはごく一部の優れたCEOだけです。そこには、何か重要な意味があるのでしょう。
採用する人材の質に妥協してはいけません。このことは誰もが知っていますが、切羽詰まった状況では誰もが一度は妥協してしまいます。そして、誰もがその決断を後悔し、場合によっては会社が致命的なダメージを受ける可能性もあります。優秀な人材もそうでない人材も、その影響は周囲に伝染します。もし中途半端な人材を採用してしまうと、組織の平均レベルが自然に上がることはほとんどありません。初期段階で中途半端な人材を雇った会社は、ほぼ例外なく立ち直ることができません。採用においては自分の直感を信じてください。少しでも迷いがあるなら、その答えは「ノー」です。
慢性的にネガティブな人を採用してはいけません。彼らは初期段階のスタートアップには不向きです。なぜなら、外部の世界は毎日のようにあなたの会社が失敗することを予測するでしょう。だからこそ、会社はその予測とは逆の強い信念で内部的に一致団結する必要があります。
ほとんどの役職において、経験よりも適性を重視してください。純粋な知性や物事を成し遂げてきた実績を持つ人を探しましょう。また、一緒に働きたいと思える人を探してください。多くの時間を共に過ごし、しばしば緊張感のある状況にも直面するからです。すでに知っている人でない場合、フルタイムで参加する前に一緒にプロジェクトに取り組んでみることをお勧めします。
優れたマネージャーになるために投資しなさい。これは多くの創業者にとって難しく、直感に反することもあります。しかし、これを得意になることは非常に重要です。ここであなたをサポートしてくれるメンターを見つけましょう。もしこれがうまくできないと、従業員はすぐに離れてしまいます。そして、従業員を保持できなければ、世界で最も優れた採用担当者であっても、それはあまり意味がありません。優れたマネージャーになるための原則はよく取り上げられていますが、私が見たことがないのは「ヒーローモードに落ちるな」です。多くの初めてのマネージャーは、ある時点でこれに陥り、すべてを自分でやろうとして、スタッフに手が回らなくなってしまいます。これは最終的には、崩壊につながります。このようなヒーローモードに切り替えたい誘惑に負けず、うまく機能するチームを作るためにプロジェクトが多少遅れても構わないという覚悟を持ちましょう。
マネジメントについて話をすると、できるだけ全員が同じオフィスにいるようにしましょう。なぜかスタートアップはこれを妥協しがちです。しかし、最も成功したスタートアップのほとんどは、最初はみんな一緒に働いてました。リモートワークは大きな企業にはうまくいくかもしれませんが、スタートアップにとっては大きな成功へのレシピではありません。
最後に、素早く解雇することです。原則として誰もが知っていることですが、実際には誰も実行していません。だからこそ、それでも言っておくべきだと感じます。また、例えその人がどんなに仕事ができたとしても、会社の文化に有害な人は解雇すべきです。会社の文化は、誰を雇い、誰を解雇し、誰を昇進させるかで定義されます。
さらに詳しく書いたブログ記事もあります。
(https://blog.samaltman.com/how-to-hire)
PART IV: EXECUTION(実行)_COMPETITORS(競合他社)
競合他社について一言:競合他社はスタートアップの怪談のようなものです。初めて起業する創業者は、競合こそがスタートアップの99%を潰す要因だと思いがちです。しかし、実際にはスタートアップの99%は他殺によるものではなく自殺で自滅してしまうのです。むしろ、内部問題について心配すべきです。もし失敗するのであれば、それは恐らく優れた製品を作れなかったか、素晴らしい会社を作れなかったかのどちらかが原因である可能性が高いです。
99%の場合、競合他社は無視すべきです。特に、競合が多くの資金を調達したり、メディアで大きな話題になったりしても、気にしないようにしましょう。実際に競合他社があなたを打ち負かすような優れた製品を出すまでは、心配する必要はありません。プレスリリースを書くことはコードを書くよりも簡単であり、さらに言えば、素晴らしい製品を作ることよりもずっと簡単です。ヘンリー・フォードの言葉を借りるならば、「恐れるべき競合相手とは、あなたのことなど気にすることなく、ただひたすら自分のビジネスを改善し続けている者である」。
どんな巨大企業も、まだ小さかった頃には現在あなたが直面しているよりも厳しい競争の脅威に直面しましたが、それでも全て無事に乗り越えてきました。常に対抗できる手段はあります。
PART IV: EXECUTION(実行)_MAKING
MONEY(お金を稼ぐ)
ああ、そうです、お金を稼ぐことですね。それをどうやって実現するか考えなければならなりません。
簡単に言えば、商品やサービスを提供するためにかかるコストよりも多くの金額を人々に支払ってもらう必要があります。なぜか、多くの人は商品・サービスの提供にかかるコストを考慮せず、忘れがちです。
無料の製品を持っている場合、ユーザーをお金で獲得して成長しようと考えない方が良いでしょう。それは広告収益モデルのビジネスでは、非常に難しいからです。人々が友人と共有したくなるようなものを作る必要があります。
有料製品を扱っていて、顧客生涯価値(LTV)が500ドル未満の場合、一般的に営業活動にコストをかける余裕はありません。SEOやSEM、広告、メール配信など、さまざまなユーザー獲得方法を試してみてください。ただし、顧客獲得コスト(CAC)を3か月以内に回収できるようにすることを目指しましょう。
*LTV: Life
Time Value(顧客生涯価値、고객 생애 가치)
[顧客生涯価値、고객 생애 가치(LTV) = 平均購買単価、평균 구매 단가 × 平均購買頻度、평균 구매 빈도(回、회/年、년) × 平均継続期間、평균 존속 기간 (年、년)
https://scalebase.com/blog/sales-strategy/unit-economics-toha
*CAC:
Customer Acquisition Cost(顧客獲得コスト、 고객 획득 비용)
[顧客獲得コスト: 고객 획득 비용(CAC) = 顧客獲得のために費やしたコスト、 고객 획득에 사용한 비용 ÷ 新規顧客の獲得数、신규 고객 획득 수]
※東大IPC:https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/cac/
*SEO: Search Engine Optimization(検索エンジン最適化、 검색 엔진 최적화)
*SEM: Search Engine Marketing(検索エンジンマーケティング、 검색엔진 마케팅)
有料製品を扱っていて、顧客生涯価値(LTV)(純利益ベース)が500ドル以上の場合、一般的に直接販売にコストをかける余裕があります。まずは自分で製品を販売してみて、何が効果的かを学びましょう。『Hacking Sales』という本は参考になります。
*Hacking Sales
(https://www.amazon.co.jp/Hacking-Sales-Playbook-Building-High-Velocity/dp/1119281644)
いずれにしても、「ラーメン収益性」、つまり、創業者がラーメンを食べて生活できる程度の収益をできるだけ早く達成することを目指しましょう。この段階に到達すれば、自分たちの運命を自らコントロールできるようになり、投資家や金融市場の気まぐれに振り回されることはなくなります。
キャッシュフローを執拗に監視してください。信じがたいことかもしれませんが、資金が尽きていることに気づかないまま破綻した創業者を私たちは何度も目にしてきました(ポール・グレアムのエッセーを読んでみてください)。
*Paul Graham’s essay “DEFAULT ALIVE OR
DEFAULT DEAD?”
(https://paulgraham.com/aord.html)
PART IV: EXECUTION(実行)_FUNDRAISING(資金調達)
ほとんどのスタートアップは、どこかの段階で資金調達を行います。
資金調達を行うべきタイミングは、「それが必要なとき」、または「好条件で調達できるとき」です。倹約の感覚を失ったり、お金で問題を解決しようとしたりしないよう注意してください。資金が不足しているのは確かに問題ですが、資金が多すぎるのはほとんどの場合悪い結果を招きます。
資金調達を成功させる秘訣は、良い会社を作ることです。創業者がプロセスを過剰に最適化しようとする様々な工夫は、おそらく全体の5%程度しか影響しません。投資家が探し求めているのは、自分たちが投資するかどうかに関わらず成功する可能性が高く、外部資本を得ることでさらに速く成長できる企業です。この「本当に成功する見込みがある」ことが非常に重要です。何故なら、投資家のリターンは一握りの大成功した企業によって大きく左右されるため、例えあなたの会社が1,000万ドル規模の会社を築く確率が100%だとしても、それ以上の規模に成長する見込みがほとんどないと判断されれば、非常に低い評価額であっても投資しない可能性が高いです。従って、自分たちが何故大きな成功を収める可能性があるのかを常に説明するようにしてください。
投資家は、次のGoogleのような大成功を見逃してしまうことへの恐れと、振り返ってみると明らかに愚かだったと思える案件に投資して損失を出してしまう事への恐れ、その両方に突き動かされています(最も優れた企業に対しては、この二つの恐れを同時に抱くことになります)。
会社が資金を引きつけられるほど十分に整っていない状態で資金調達を試みるのは、悪いアイデアです。それによって評判を損ない、時間を無駄にしてしまう可能性があります。
資金調達に苦労しても落ち込まないでください。多くの優れた企業が同じように苦労しています。なぜなら、本当に優れた企業ほど、最初は見栄えが悪いことが多く、そしてほとんどの場合、流行から外れて見えるものだからです。投資家が「ノー」と言うときは、その「ノー」という結果は受け止めても、その理由までも鵜呑みにしないでください。そして、「イエス」以外はすべて「ノー」だということを覚えておいてください。投資家は「ノー」を「多分イエス」に思わせるような言い方がとても上手です。
資金調達の会話は必ず並行して進めることが非常に重要です。お気に入りの投資家リストを一人ずつ順番に当たっていくのはやめましょう。投資家を動かす最大の原動力は、他の投資家に先をこさえることへの焦りを感じさせることです。
資金調達は必要悪として捉え、できるだけ早く終わらせるべきものと考えてください。中には資金調達に夢中になってしまう創業者もいますが、それは常に悪い結果を招きます。できれば会社の運営が止まらないように、資金調達は1人の創業者が担当するのが理想的です。
ほとんどのベンチャーキャピタル(VC)は、ほとんどの業界についてあまり詳しくないことを覚えておいてください。だからこそ、最も説得力があるのは、常にメトリックス(データや指標)です。
少しずつ変わりつつありますが、残念ながら今でも多くの投資家(Y Combinatorは顕著な例外ですが)は、あなたと投資家の共通の知人からの紹介がなければ真剣に取り合ってくれないのが現実です。
条件はシンプルにすることを徹底してください。(複雑な条件はラウンドを重ねるごとに悪化していきます)。ただし、特に評価額に関して過度に最適化しないようにしてください。企業評価額は定量的な指標であるため、創業者たちは往々にして最高の評価額を目指して競争することを好みます。しかし、中間段階の評価額にはそれほど重要な意味はありません。
最初の一筆(最初の投資)を得るのが最も難しいので、まずはそこに全力を注いでください。そのためには、通常、あなたのことを最も支持してくれる投資家に集中することを意味します。常に複数のプランを用意し、その中には「資金を一切調達しない」というプランも含めてください。そして、投資家の関心度合いに応じて柔軟に対応してください。もし追加の資金を有効活用でき、かつ妥当な条件で資金が得られるのであれば、それを受け入れることも検討してください。
ピッチが上手くなるための重要なポイントの一つは、自分たちのストーリーをできる限り明確で分かりやすく伝えることです。当然、最も重要なポイントは、実際に良い会社であることです。ピッチに何を含めるべきかについては様々な意見(考え方)がありますが、最低限含めるべき要素は、ミッション(使命)、解決しようとする課題(問題)、プロダクト/サービス、ビジネスモデル、チーム、市場と市場の成長率、そして財務状況です。
資金調達の各ラウンドでは求められる基準が格段に高くなることを覚えておいてください。シードラウンドではただ魅力的なプレゼンであるだけで上手く行ったかもしれませんが、シリーズAではそれが通用しないことに驚かないでください。
良い投資家は本当に大きな価値をもたらしてくれます。悪い投資家は大きな損失をもたらします。ほとんどの投資家はその中間に位置し、特に価値を加えることも減らすこともありません。少額しか投資しない投資家は通常、あなたのために何もしてくれないことが多いです(いわゆる、「パーティーラウンド」には注意しましょう)。
優れた社外取締役は、ユーザー以外で会社にとって最も効果的な外部からの強制力(プレッシャー)の一つです。そして、この外部からのプレッシャーというのは、多くの創業者が思っている以上に価値があります。非常に積極的に関わってくれる優れた取締役を迎えられるのであれば、より低い評価額(バリュエーション)を受け入れることも検討すべきです。
ポール・グラハムによるこのエッセイは、資金調達に関して最も優れたものだと思います。
*HOW TO RAISE MONEY
(https://paulgraham.com/fr.html)
CLOSING THOUGHT(締めくくり、맺음말)
全ての素晴らしいアイディアには、少なくとも千人以上の人が思い付いていることを覚えておいてください。その中で実際に成功するのは、ほんの一握りの一人だけです。その違いを生むのは「実行力」です。それは地道な努力の積み重ねであり、「アイデア」を「成功」に変える方法が他にあればいいのにと誰もが願うものですが、まだ誰もその方法を見つけていません。
つまり、必要なのは、素晴らしいアイデア、素晴らしいチーム、素晴らしい製品、そして素晴らしい実行力だけです。簡単ですね! ;)
この文章に対してお考えを寄せて下さった上記の方々に感謝します。
スタートアップ・プレイブック
著:サム・アルトマン、絵:グレゴリー・コバーガー、スペイン語訳付き
次回の更新は2025年8月17日(日)に予定されています。どうぞお楽しみに!
다음 업데이트는 2025년 8월 17일(일)에 예정되어 있습니다. 많은 기대 부탁드립니다!
The next update is scheduled for Sunday, August 17, 2025. We hope you look
forward to it!
















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